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ケペール渓谷の伝説(旅行レポートの続きです)Legend of the Que'Appelle Valley
「ケペール渓谷の伝説」 Legend of the Qu'appelle Valley
E. ポーリーン・ジョンソン (アメリカ原住民モホーク族の有名な詩人)

アメリカ原住民であるクリー族の人々には、ケペール渓谷に関する伝説があります。幾つか連なっている湖の辺りで夜になると人々の泣き声が聞こえ、さらにクリー族の言葉で「カータプワオ?」と問いかける声が聞こえるそうです。これは「何が呼んでいるのか」という意味ですが、当地にはフランス系の毛皮貿易商人である開拓者が多く入っており、これが古いフランス語で同じ意味の「クェ・ペール?」と訳されて今に伝わっているということです。

この話の歴史的な背景ははっきりしていませんが、モホーク族の有名な詩人E.ポーリーン・ジョンソンが脚色して書いた美しい詩が人々に広く愛されていて、それが現在までも伝わっています。この詩はカナダの無形文化財となっています。文中にこだまが聞こえるというところがありますが、これが湖の一つ「こだま湖」の由来、「カタプウェ湖」の由来は現地語のままで、それともうひとつ「使命湖」というのがあるのは、教会があるからだと思います。巡礼地になっているそうで、丘の上に小さな教会があって、そこに続く細い道添いにいくつもの大きな白い十字架が立っていました。

なお、原文はこちらにあります。
http://www.fortquappelle.com/history.html
訳注を付けておくと、第一節の「それを最初に聞いたのは僕だ」というのは原文では’I am the one who heard the spirit voice;Of which the paleface settlers love to tell:’となっています。これは「私は白人の開拓者が好んで語る声を聞いた者である。」というのが直訳ですが、問題のその声というのは「誰だ、誰が呼んでるんだ?」という声のことなので、つまり彼の声が亡霊になっているということです。何と言っても創作なので、そういう些細なことは気にしないで書かれているのでしょうが、ここは彼女の呼び声も一緒に亡霊の声のセットになっていると想定して、その彼女の分の声を聞いた自分、ということで、苦しい意訳にしてみました。


。。。。。。。。。。。。。

僕は彼女を自分の命のように想っていた。
美しい若い女性に育つ様子を見てきたし、
彼女を妻と呼ぶ特権さえも自分のものにした。
世界は、彼女がいたから、良きところだった。
白い顔の開拓者たちは好んで精霊の声の話をするが、
それを最初に聞いたのは僕だ。
その声にまつわる奇妙な話のせいで
彼らはこの美しい渓谷をケペールと名づけたわけであるが。

彼女が優しく告げる声を僕はいとおしく聞いた。
「冬が近づく頃、黒っぽくかすんだような青空が続くころには、
この湖に戻ってきてね。
あなたのカヌーの櫂が歌うように水を切る音を
誰よりも先に聞きたいの。
誰よりも先にあなたの手の中に私の手を載せて、
水辺であなたを迎える言葉をささやくのよ。
そしてあなたが故郷に帰るときには
私も一緒に行くわ。
永遠の妻として。」

旅立つ前には落葉の一枚もなく、霜の降りるような気配もなかった。
北国の女性の中の女王のような愛する娘を娶るのが待ちきれず、
夕暮れも明け方も休まず、僕は昼も夜も旅を続けた。
連なる湖に着いたら、その優しい胸に急いでカヌーを浮かべた。

眠くても空腹でも休まずに、連なる水路を漕いで進んだ。
でも僕の心だけは櫂を動かす手よりももっと速く、
湖の水を絶え間なく切り続ける魔法の櫂よりもっと速く、
距離や時間を越えて進んだ。
彼女の前に僕の想いを届け、
彼女の瞳が愛の光で輝くのを見たかったからだ。

日々が過ぎるのが遅く感じられて仕方がなかった。
会える日まであと一日となったが、
そこまで来るのに人生の半分が立ちふさがって邪魔をしているような感じがした。
「とうとう、」と僕は言った。
「あと一日で女王は僕のものだ。」
休憩を取ってうとうとして、ぼくを待っているはずの大きな幸せの夢を見ていたら、
突然、影の落ちる水辺のほうから優しく僕の名を呼ぶ声が聞こえた。

「誰だい?」と僕は答えた。返事はなかった。
櫂が動かないようにして、じっと耳を澄まして待った。
すると夜を渡る風の悲しげな歌の向こうから
もう一度はっきりと、その奇妙な声が聞こえた。
女の声。夕暮れの薄暗がりを通って、
まだ生まれぬ魂に歌う声のない歌声のように。
僕は前かがみになって聞き入った。彼女がぼくの名前を呼んだのだ。

僕は古臭いフランス語でも聞き返した。
「ケペール?誰が呼んでいるのだ?ケペール?」返事はない。
夜は静けさを増し、遠くの丘にぶつかったこだまが遠くから僕を囲むように降ってきた。
「ケペール?」返ってきたのは僕の声。「ケペール?ケペール?」
これだけ、これだけだ。
僕は夜の暗闇が増して寒さに震えるまで声を上げて呼んだ。
そしたら、青ざめた亡霊のように、
血の気のない冷たい月が東の空に黙って姿を見せた。

船を彼女のテントの前につけたときのことを
僕はあまり思い出さないようにしている。
女たちや男たちの嘆き悲しむ声が聞こえ、
水辺に弔いの火が灯してあるのが見えた。
女性の中の女王、僕の妻となるはずだった女性の前に連れて行かれて
再会を果たした。
そのとき、僕のその後の人生に洪水のようにあふれた拷問を、
痛みを、苦しみを、
表現する言葉はない。

彼女の美しい顔、閉じた目、息を知らない唇。
死という恋敵に敗北したことを、
僕は見て、知って、理解した。
打ちのめすような悲しみが
僕の心を粉々にした。
人生が明かりを消してしまったように見えた。
そのとき、悲嘆の中で誰かが静かに言った。
「昨日、彼女はあなたの名前を二度呼んだ。」

我に返り、愛しい死者の上に身をかがめたままで、
彼女の優しい唇が静かに閉じたのはいつかと尋ねた。
「彼女はあなたの名前を呼び、そして逝った。」と彼らは言った。
「ちょうど月が出た頃だった。」
淋しい湖の連なりを僕はもう渡ることはない。
彼らを美しく見せていた者がもういないからだ。
白い顔の人々は水辺にテントを建て、
この渓谷はどこよりも美しいと言う。

あれから何年もの年月が流れて消えていったけれど、
今でもキャンプファイヤーの横で開拓者たちは
「遠くの丘の向こうに月の昇るころ、静けさの中で奇妙な声が聞こえる」と言う。
白い顔の人々は亡霊のいる湖を大いに好み、
長い道のりを旅してその美しい姿が視界一面に広がるのを見ると言う。
でも僕には昼も夜も時間も季節も
どれもこれも死んだようなものだ。
猟師たちが「なぜ白人たちがこの渓谷をケペールと呼ぶのか」という話をするのを、
僕は胸の潰れるような思いで聴くのである。

by ammolitering3 | 2007-09-01 08:34